OST(オープンスペース・テクノロジー)教室版の実践(H24)

「書くこと」における交流の工夫
望月 陵(山梨大学教育人間科学部附属中学校)
キーワード 言語活動例 学習過程 交流 ワールド・カフェ O.S.T
概  要  新学習指導要領の柱となっている言語活動例を軸にしたB領域の実践。
      「ワールド・カフェ」や「O.S.T」を用いた【交流】の工夫
 

 
【 石川啄木 十首 】一首を選ぶとしたら…… 

東海の小島の磯の白砂に

われ泣きぬれて 

蟹とたはむる
 
 

たはむれに母を背負ひて

そのあまり軽きに泣きて 
三歩あゆまず
 
 
やはらかに積れる雪に
熱てる頬を埋むるごとき
恋してみたし     
 
 
何がなしに
息きれるまで駆けだしてみたくなりたり
草原などを
 
 
はたらけど 
はたらけど猶わが生活楽にならざり 
ぢつと手を見る
 
 
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ
 
 
不来方のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
 
 
ふるさとの訛なつかし 
停車場の人ごみの中に 
そを聴きにゆく
 
 
やはらかに柳あをめる 
北上の岸辺目に見ゆ 
泣けとごとくに
 
 
ふるさとの山に向かひて
言ふことなし
ふるさとの山はありがたきかな
 
 


 
 
 
Ⅰ 新学習指導要領について(省略)
Ⅱ 実践

「短歌を詠む」 〜描写を工夫して短歌を創作する。〜
 学年 第2学年  
 様々な短歌を読み,身の回りの物事や体験,心の動きなどを短歌を通して伝えることが出来るように表現を工夫して短歌を創作する。

 (1)育成を目指す言語能力  
  表現を工夫して短歌を創作する力。
【指導事項】 書くこと
ウ 事実や事柄,意見や心情が相手に効果的に伝わるように,説明や具体例を加えたり,描写を工夫したりして書くこと。
 【伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項】
  (1)イ中2(イ)抽象的な概念を表す語句,類義語と対義語,同音異義語や多義的な意味を表す語句などについて理解し,語感を磨き語彙を豊かにすること。
言語活動例 
 ア 表現の仕方を工夫して,詩歌をつくったり物語などを書いたりすること。
 (2) 単元設定の理由
 短歌や俳句がどのようなものであるかは,小学生の学習や日常体験において見聞きしている。また,いくつかの作品を口ずさむことが出来る生徒もいる。語感や音感・リズム,また日本文化という大枠で見ても有意義な体験を生徒は積み重ねてきた。
 今回は,短歌の少し深いところまで「読み」,そして短歌を「詠む」ところまでつなげていきたい。今までリズムよく読んできた歌の解釈を行うことで,内容の理解だけでなく,表現技法の側面からも短歌の面白さにアプローチできればと考える。
 ほとんどの生徒にとって短歌を創作することははじめての経験であり,教師も歌人ではないので原則的なところしか押さえられない。しかし,これらの学習活動が短歌を「よむ」ことの楽しみにつながり,ものの見方や感性を豊かなものにするきっかけになることを期待する。
 
(創作のアプローチに関しては以下の文献を参考にした)
「短歌をつくろう」栗木京子 2010 岩波書店
「短歌の作り方,教えてください」俵万智・一青窈 2010角川学芸出版
 
【 五つの言語意識 】
目的意識 短歌について関心をもち,三十一文字の中に語感やリズムなどの工夫を加えながら自分の心の動きを伝えるために。
(言葉の美しさを感じさせる表現,心に残った表現,口ずさみたくなる表現など)
相手意識 学級の友達に向けて
方法意識 既習の事項も生かして,原則として定型のリズムに乗せ,表現を工夫して創作する。
評価意識 交流を通して,イメージが伝わるように推敲をすることができたか。
【 学習過程を意識させる 】
 書くことのプロセスを生徒に意識させるために,学習の流れを確認することができるようなワークシート(例:1枚ポートフォリオ)を使いたい。ワークシートの項目として,下記のような学習過程に沿った記述欄を設け,学習の目標を見失うことなく,1時間1時間の授業における学習の流れが確認できるようにする。
 
      学習の目標を確認(学習課題の提示)取材 石川啄木の歌を選ぶ。
      学習活動1 交流 グループ内での読み比べを通して(O.S.T)
      学習活動2 記述 「独楽吟」,「足たたば」
      学習活動3 推敲・交流 グループ内交流を通して
      自己評価  学習を通して身に付けることができた力とは
      目標に対する自己評価
(最終評価欄)
 ・指導事項について
・学習活動 ①取材 ②記述 ③交流 ④推敲 ⑤発表 
 
【 O.P.P 1枚ポートフォリオ 】
 一枚ポートフォリオの詳細については,山梨大学教育人間科学部教授 堀哲夫先生にうかがいました。堀哲夫「授業と評価をデザインする」日本標準 2011
 
【 資料1 】 ポートフォリオ例(省略)
 
 
【交流の工夫】
その1「ワールド・カフェ」
 (後半の生徒が創作した短歌の交流の際に行いました。省略します)
1.効果的な交流を
 「言語活動を通して知識技能を活用させ,思考力・判断力・表現力等を育むための手立て」
言語活動の充実が求められる中,「話し合い」や「交流」などの活動を意図的に学習過程に組み込む場面を多く設定している。小グループによる意見交換は効果的であることが実感としてある。しかし,ただの意見発表で終わってしまったり,深みや広がりをもった交流にまでたどり着かなかったりする場合も多く見受けられる。そこで,効果的な交流のあり方の一つとして,山梨大学の須貝千里教授とともにファシリテーション(facilitation:集団による知的相互作用を促進する働き)のひとつとして「ワールド・カフェ」の教室版に取り組んだ。
 ここでの目標は,以下の通りである。
 ・もっている知識や考えなどを活用する。
 ・友人と関わることで自分の考えを形成する。
 ・積極的な学習への参加意欲。
2.ワールド・カフェとは(省略)
 
その2「O.S.T」Open Space Technology
 (前半部の「詠む」ために「読む」活動で取り組みました。)
1.オープンスペース・テクノロジーとは(省略)
2.O.S.Tを教室版に
1)アジェンダ形成
・目的,学習の流れの確認
  【課題】「口ずさむことができる一首を選ぶ」
        〜OSTを通して根拠を明確にする。
  ボードを活用し,石川啄木の十首を全員で音読し,作品の概要について知る。
 
2)マーケットプレイスの設定
・同じ歌に興味がある生徒がサークルを形成する。
 ボードを元にファシリテーターを決定する(パネルを持っている生徒)。その後,他の生徒が第一印象で気に入った(気になる)一首の元へ行き,サークルを形成。
 
3)1stセッション
 各サークルで「なぜその歌を選んだのか」「どのような表現に惹かれたのか」などについて話し合う。気付いたことなどは,落書き用の模造紙(写真左)か各自のノート(写真右)に記入。
 
4)2nd セッション
違うサークル(違う短歌)に参加するもよし,同じサークルに残りで更に読みを深めるもよし。
 
 

5)3rdセッション

さらにメンバーを替え,話し合う。
 啄木について知りたいことがある場合には,セッション中に情報を収集しても良い。今回は,パネルが活躍。
・「十五の心」とあるが,この歌はいつ詠んだのか?
・「妻と親しむ」とあるが,いつ,どのような人と結婚したのか?
 などの疑問について調べていました。
 
6)アクションプラン
各サークルでどのような解釈が行われたか発表する。
 ①選んだ理由を明確にし,ノートに記述。
 ②交流で得た新たな発見や疑問を大切にする。
 
7) お気に入りの一首に「シール」を貼る。
 
 参考文献 】
河野庸介・佐藤喜美子 「中学校国語科新授業モデル 伝統的な言語文化を国語の特質に関する事項編」 明治図書 2011
冨山哲也編著「<単元構想表>でつくる! 中学校新国語科授業STARTBOOK」明治図書 2011
井上尚美 「思考力育成への方略 —メタ認知・自己学習・言語理論—」 明治図書2007
香取一昭 大川恒 「ワールド・カフェをやろう!」 日本経済新聞社 2009

堀 公俊 「ファシリテーション入門」日本経済新聞社 2004 

県内学校園に向けての学習支援

PTA/保護者の皆様へ

学びの扉

なしだいふぞくオンライン入口

附属学校園の教員派遣

ページの先頭に戻る